湘北SDGs

【授業紹介】「生活とSDGs」豊永翔平氏による特別授業を実施  (2024年6月)

「地球沸騰化」が食にもたらす深刻な影響とはー

 生活プロデュース学科では、今年度も1年生必修科目「生活とSDGs」で豊永翔平氏による特別授業をオンラインで実施しました。「気候変動時代における新たな食と農のかたち」と題し、「地球沸騰化」とも呼ばれるようになった気候変動が、私たちの食や農業に及ぼす深刻な影響について学びました。

 人口80億人が暮らす地球では、温暖化、淡水の枯渇、砂の不足や耕作地の減少などにより、近い将来、深刻な食料不足が起きると予想されています。日本の農業の現状をみると、農家の高齢化が急速に進み、戦後600万人いた農業従事者が2050年には36万人にまで減少するという予測データがあります。近い将来、私たちが生きていくために必要なカロリーを得る食事が、三食とも米やイモ類ばかりになってしまい、肉は9日に1回しか食べられない時代がやって来るかもしれないそうです。

 豊永さんは、こうした気候変動と食料不足の問題を解決するため、26歳で起業、沖縄に研究開発拠点Cultiveraを設立し、環境に優しい独自の栽培技術「Moisculture」を開発しました。これは、特殊な繊維層に水をしみこませ、気化した湿度で野菜を育てるという画期的な特許技術です。 豊永さんが三重県多気町に設立した株式会社ポモナファームでは、この技術を使って、トマトやマイクロリーフなどの野菜を生産しています。光合成に必要な環境があれば、土不足、水不足の場所でも農作物を生産することが可能になり、農業排水もゼロで自然界の環境負荷を軽減できる「超省資源・環境適応型」の農業です。

 今回、豊永さんには、この技術で栽培されたプチトマト「POMONATOMATO mini」などを受講生にご提供いただきました。このトマトは、糖度を8度に抑えたもので、脳がもう一度食べたくなる糖度にコントロールしているそうです。また、昨年、トマトとしては世界で初めてGABAの機能性表示を取得しました。GABAは睡眠の質の改善、認知機能の維持、肌の弾力の回復にも効果があります。今回頂いたトマトは、美味しいだけでなく健康維持にも寄与する優れた特長があるのです。

 現在は、「スマートセル」という細胞分裂を利用する技術を使って、イネを育てながらワクチンを開発する研究も行っています。これが実用化されると、アフリカでイネを育てながらマラリア予防のワクチンを製造、ワクチン供給と飢餓の解決を同時に実現することが可能になります。

 受講生たちの感想を紹介します。

■講義を聞いて、自分の食生活にも影響があると強く感じました。気候変動により、野菜や果物の価格が上昇し、入手しづらくなることがわかりました。そのため、省資源型の食品や代替肉を積極的に取り入れ、持続可能な食生活を心がける必要があると思いました。また、地元産の食材を利用することで、食料供給の安定化に貢献することも重要だと思います。なにか力になれることがあればしたいなと思いました。(Y.H.)

■豊永さんのお話ししてくださった「スマートセル」について個人的に調べてみました。このスマートセルの技術を活用すれば世界的に被害が甚大なジャガイモの根に寄生する害虫を駆除することができ、ジャガイモの収量低下という世界的課題の解決が期待されていることを知りました。今後このような技術がもっと発展していけばいいなと思いました。(R.K.)

■私は今まで産地やどなたが作ってくださったものなのか等は気にすることがありませんでした。これからは少し気にしたいなと思いました。トマトは頂いたその日に冷やして食べました。ぷりぷりで美味しかったです!(H.K.)

 豊永さんは、持続可能な農業技術を世界中に普及させることで「100億人の食を支えるグローバルスタンダード」という大きな夢の実現を目指しています。海水農業や、気候難民対策としての海上都市構想など、山積する地球の課題解決に向けて、これからも壮大なチャレンジが続きます。受講した学生たちは、豊永さんの授業をきっかけに、地球全体に意識を向け、気候変動が深刻な課題であることを理解すると同時に、自分たちには何ができるのかについて改めて深く考える機会となりました。

(生活プロデュース学科 簗瀨千詠)

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